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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)119号 判決

東京都杉並区和田一-一六-四

原告

庭野林蔵

右訴訟代理人弁護士

中条政好

東京都杉並区成田東四-一五-八

被告

杉並税務署長

木下愛司

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

五十嵐徹

新保重信

磯部喜久男

牧憲郎

主文

一  被告が原告に対し、昭和三九年三月一二日付でした原告の昭和三五年分の所得税にかかる再々更正処分及び過少申告加算税賦課決定のうち、総所得金額四、九六七、七八〇円を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告に対し、昭和三九年三月一二日付をもつてした原告の昭和三五年分の所得税にかかる再々更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件課税処分の経緯は、別表のとおりである。

2  しかしながら、原告はいわゆる青色申告を行なつている者であるから、被告が昭和三九年三月一二日付でした再々更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、両処分を「本件再々更正処分」という。)には理由の附記を要するところ、本件再々更正処分に附記されている理由は不備であり、したがつて、本件再々更正処分は違法である。

3  仮に理由附記に不備はないとしても、本件再々更正処分は、原告の昭和三六年三月一〇日付の確定申告にかかる総所得金額六一六、四四七円を超える限度において原告の総所得金額を過大に認定した違法があるので、原告は、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実及び同2のうち原告が青色申告を行なつている者であることは認めるが、同2、同3の本件再々更正処分が違法であるとの主張は争う。

三  被告の主張

(理由附記不備の違法について)

旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)では、青色の申告書を提出することができる所得の種類は事業所得、不動産所得、山林所得に限定されており、雑所得については青色申告の対象たる所得でないことは明らかである。ところで、本件課税処分は青色申告に対する更正処分であるが、本件訴訟において争いの対象となつているのは、所得税法にいう雑所得にかかる所得金額の存否である。

そもそも所得税法が青色申告に対する更正について更正通知書に更正の理由を附記すべきものとし、青色申告書でない申告書(一般に白色申告書と称している。)と取扱いを異にする理由は、同法が青色申告書提出承認のあつた所得については税務署長にその計算を所定の帳簿書類に基づいて行なわせ、その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることのない旨を納税者に保障している関係上、その更正にあたつては特にそれが帳簿書類に基づいていること、あるいは帳簿書類の記載を否定できるほどの信憑力のある資料によつたという処分の具体的根拠を明確にする必要があり、かつ、それが妥当であるとしたことに基因するのである。

したがつて、右の理由附記は、所定の帳簿書類の記載に基づいて計上されるところの青色申告書提出承認のあつた所得について更正のあつた場合に限られるべきは当然というべく、青色申告に対する更正であつても、それ以外の所得にかかる更正の場合には、白色申告に対する更正と同様に更正処分の理由附記を要しないというべきである。のみならず本件においては、増額更正部分は、青色申告承認の対象外の所得である雑所得に関する更正である旨附記している。

したがつて、本件再々更正処分における理由附記が不備であるとして右処分が違法な処分であるとする原告の主張は失当である。

(所得認定の適法性)

本件再々更正処分における総所得金額の認定は、以下に述べるとおりであり正当である。

1 原告の係争年分の総所得金額は一九、三二九、四八七円であり、その内訳は事業所得五九四、九四六円、雑所得一八、七三四、五四一円である。

2 右のうち、争いのある雑所得一八、七三四、五四一円の算出根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 一九、二五〇、〇〇〇円

(1) 原告は、大仁国際観光株式会社(以下、「大仁国際」という。)に対し、同会社が静岡県田方郡大仁町に建設するゴルフ場の用地買収等の資金として、昭和三五年六月二九日に三、〇〇〇、〇〇〇円を(但し、そのうちの一、五〇〇、〇〇〇円は同会社に対する出資金とし、原告は右金額相当の同会社の株式を取得した。)、さらに同年八月一〇日に一、〇〇〇、〇〇〇円、同月三〇日に二〇、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ貸付けた。

大仁国際は、右の出資金及び借入金について、原告に対し、同年一一月二二日に二、〇〇〇、〇〇〇円、同月二六日に二八、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ支払い、右借入金の返済をするとともに、前記株式を買取つた。

(2) ところで、右株式の買取価格は、同じ頃における大仁国際が他の株主から買取つた右会社の株式の買取価格からみて、二、二五〇、〇〇〇円と評価するのが相当であるから、原告が大仁国際から支払を受けた前記三〇、〇〇〇、〇〇〇円の中には所得税課税の対象とならない株式譲渡益七五〇、〇〇〇円が含まれているものと解される(昭和三六年法律第三五号による改正前の旧所得税法六条五号)。そこで、右の三〇、〇〇〇、〇〇〇円から原告の前記出資金及び貸付金合計二四、〇〇〇、〇〇〇円と右の株式譲渡益七五〇、〇〇〇円を控除した五、二五〇、〇〇〇円が原告の前記貸付けによる利息及び謝礼金になるというべきである。

(3) 大仁国際は原告に対し、前記貸付及び出資を受けるに際し、原告が前記のとおり収受した利息及び謝礼金五、二五〇、〇〇〇円及び株式譲渡益七五〇、〇〇〇円の外に、前記貸付に対する謝礼金として一四、〇〇〇、〇〇〇円支払うことを約した。したがつて、右一四、〇〇〇、〇〇〇円も旧所得税法一〇条一項にいう「収入すべき金額」にあたるものとして雑所得を構成するものというべきである。

(二) 必要経費 五一五、四五九円

原告が前記総収入金額を得るために要した費用は銀行調査により把握した支払利息を基礎として認定した五一五、四五九円である。

(三) 差引所得金額((一)-(二))一八、七三四、五四一円

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張(所得認定の適法性)の1について

原告の係争年分の事業所得金額が五九四、九四六円であることは認めるが、雑所得金額は争う。

2  同2(一)について

(一) 同(1)の事実は認める。但し、そのうち被告主張の昭和三五年八月一〇日付の貸金一、〇〇〇、〇〇〇円は後記のとおり、原告が大仁国際の株式取得のための出資金として支出したものである。

(二) 同(2)は争う。

原告は大仁国際に対して昭和三五年六月二九日に三、〇〇〇、〇〇〇円を融資したが、うち一、五〇〇、〇〇〇円は大仁国際に対する出資金とし、同会社の株式一、五〇〇株を取得し、五〇〇株を津原福子の名義とし、残り一、〇〇〇株を斎藤音吉の名義とした。さらに、同年八月一〇日に一、〇〇〇、〇〇〇円を出資して同会社の株式三、五〇〇株を同会社から取得したが、同会社は右株式合計五、〇〇〇株を同年一一月二六日に七、五〇〇、〇〇〇円で原告から買取つた。原告は、右四、〇〇〇、〇〇〇円の融資とは別に、同年八月三〇日に前記会社に対して同会社のゴルフ場用地購入資金として二〇、〇〇〇、〇〇〇円を貸付け、その際、同会社は原告に対して、右用地買収に成功したときは右二〇、〇〇〇、〇〇〇円の貸付けに対する報酬として二〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払うことを約した。ところで、原告は、同会社から昭和三五年一一月二二日に二、〇〇〇、〇〇〇円、同月二六日に二八、〇〇〇、〇〇〇円、合計三〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受けているが、そのうちの七、五〇〇、〇〇〇円は前記のとおり同会社の株式五、〇〇〇株の売買代金として受領したものであり、残額二二、五〇〇、〇〇〇円は前記貸付元金二〇、〇〇〇、〇〇〇円とそれに対する前記報酬金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の一部二、五〇〇、〇〇〇円として受領したものである。

したがつて、右所得は有価証券譲渡による所得であるから、非課税所得に該当するものである。

(三) 同(3)のうち、大仁国際が原告に対して前記貸付に対する謝礼金として一四、〇〇〇、〇〇〇円支払うことを約したとの被告主張の事実は、前記二〇、〇〇〇、〇〇〇円の報酬支払の契約を締結したという意味において認めるが、その余は争う。

大仁国際は前記用地買収に成功後、右契約に基づく報酬金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払に容易に応ぜず、右契約の解除を求めるので、原告は前記のように大仁国際から報酬金二、五〇〇、〇〇〇円のみの支払を受けた時点で、右契約中未履行の部分は昭和三五年一一月二六日双方合意のうえ解除した。

仮りに、右合意解除の事実が認められないとしても、その後も大仁国際は残余の報酬金の支払をせず、右会社には右報酬金支払の意思も能力もないことが判明したので、原告は昭和三六年一二月に右債権を放棄し、その旨大仁国際に通知した。

仮りに、以上の事実が認められないとしても、被告主張の謝礼金一四、〇〇〇、〇〇〇円の支払を大仁国際が約した日は昭和三五年一一月二六日であり、その弁済期は昭和三六年二月二八日であるから、民法一六九条所定の短期消滅時効の完成により昭和四一年二月二八日の経過とともに消滅した。したがつて、時効消滅した右債権は資産的価値がないというべきである。

以上の各理由により被告主張の謝礼金一四、〇〇〇、〇〇〇円は原告の雑所得を構成しないというべきである。

3  同2(二)について

必要経費が五一五、四五九円であることは争う。

原告は大仁国際に前記のとおり融資した資金を調達するために津原貢、津原福子、佐藤公三郎、斎藤音吉、大和田商事株式会社、株式会社日幸社、宮関勇外数名の協力を得たが、右資金調達のために次のとおり合計六、二八三、八二七円を要した。したがつて、右金額が必要経費になるというべきである。

(一) 支払利息等 八八七、五六四円

右は、甲第六号証の一、二、四、一四及び一五記載の原告が東京相互銀行等から借受けた金員に対して支払つた利息、抵当権設定費用、仮受金(公正費用)、印紙代の合計額である。

(二) 割引料 六四、〇三五円

右は甲第七号証の一ないし六及び一〇記載の割引料(延滞利息を含む。)並びに手数料(確定日付料及び印紙代)の合計額である。

(三) 雑費 四二、二二八円

右は、甲第八号証の一ないし八記載の原告が支払つた登録関係の費用の合計額である。

(四) 支払報酬 四、九四〇、〇〇〇円

右は、津原貢、同福子に支払つた費用及び報酬の合計額である。

(五) 残務整理費推計額 三五〇、〇〇〇円

五  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告の反論2(三)に対して

仮りに原告の主張する債権放棄があつたとしても、大仁国際は、当時から現在に至るまで引続き営業を継続しており、右謝礼金一四、〇〇〇、〇〇〇円の債務について支払能力を有していたというべく、かかる状態においてなされた債権の放棄は、債権が回収できなかつた場合の放棄に当らず、旧所得税法上貸倒れ損失として必要経費に算入することはできない。

2  原告の反論3について

支払報酬(四、九四〇、〇〇〇円)に関しては、仮りに原告において津原貢、同福子に対して右金額に見合う支払もしくは債権放棄があつたとしても、その支払は原告もしくは大和田商事株式会社と津原両名との個人的紛争の解決に際して示談金として津原両名に贈与したものであり、原告の大仁国際に対する融資に付随してなされた支出と認めることはできないので、必要経費にはあたらない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、第二号証、第三、第四号証の各一、二、第五号証、第六号証の一、二、四、一四、一五、第七号証の一ないし六、一〇、一二、第八号証の一ないし八、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、第一二、第一三号証

2  証人佐藤公三郎、同権田光正、同勝間敏雄、同佐藤徹、同小林恒美、原告本人

3  乙第一号証、第五号証の一ないし九の成立はいずれも不知、第二ないし第四号証の成立はいずれも認める(第三、第四号証については原本の存在も認める。)。

二  被告

1  乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし九

2  証人小林恒美、同滝口良光

3  甲第一、第二号証、第三、第四号証の各一、二、第五号証、第六号証の一、四、一四、一五、第七号証の一ないし六、一〇、一二、第八号証の一ないし八、第一三号証の成立はいずれも不知、第六号証の二、第九号証の一、二、第一〇証、第一一号証の一ないし三、第一二号証の成立はいずれも認める(第九号証の一、二については原本の存在も認める。)。

理由

第一理由附記不備の違法について

一  弁論の全趣旨によれば原告が昭和三五年分所得税に関し、事業所得について青色申告書を提出することの承認を受け、昭和三六年三月一〇日、昭和三五年分の所得税につき、事業所得のみを青色申告書により確定申告したことが認められ、その後別表記載のとおりの経緯により、被告が原告に対し、昭和三九年三月一二日付で、原告には昭和三五年中に申告にかかる事業所得(一部減額)の外に雑所得があるとして、本件再々更正処分をしたことは当事者間に争いがない。

また成立に争いのない甲第一二号証によれば、本件再々更正処分にかかる更正通知書には更正の理由として次のとおり記載されていることが認められる。

「あなたの申告に係る所得金額には次のような誤りがあります。

1  営業所得

必要経費に加算しなければならないもの

減価償却費 二一、五〇一円

2  雑所得

昭和三五年一一月二六日大仁国際観光株式会社より受領した七、五〇〇、〇〇〇円のうち雑所得の収入金額と認められる五、二五〇、〇〇〇円から必要経費(負債利子)五一五、四五九円を控除し雑所得四、七三四、五四一円として計算しました。」

二  ところで、旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの。)四五条二項により更正の理由を附記しなければならないのは、法定の帳簿書類の記載に基づいて計上される青色申告書提出承認のあつた所得について更正のあつた場合に限られるのであつて、青色申告に対する更正であつても、それ以外の所得に関する場合には白色申告に対する更正と同様に処理されれば足りるものと解すべきところ、前記認定のとおり、原告において青色申告書提出の承認を受けていたのは事業所得についてであり、しかも本件再々更正処分は、右事業所得については原告に有利に一部減額したにすぎず、増額加算したのは申告に脱漏のあつた雑所得についてだけであるから、本件再々更正処分には更正理由の附記を要しないものというべきである。したがつて、更正理由の附記の不備をもつて本件再々更正処分を違法とする原告の主張はその前提において誤りがあり、採用することができない。

仮に、本件において更正理由の附記が必要であるとしても、更正通知書には前記認定のとおり処分理由の記載があり、右は本件再々更正処分の理由附記として十分なものと認められるから原告の右主張は結局理由がないというべきである。

第二所得認定の適否について

一  原告の係争年分の事業所得金額が五九四、九四六円であることは当事者間に争いがない。

二  そこで本件の争点である雑所得金額について以下検討する。

1  総収入金額

(一) 被告の主張する原告の雑所得の基因となる収入は、原告が大仁国際に貸付けた金員の利息ないし謝礼金にかかるものであるところ、先ず、被告の主張(所得認定の適法性)2、(一)、(1)の事実は当事者間に争いがない。

もつとも被告の右主張事実中、原告が昭和三五年八月一〇日大仁国際に交付した一、〇〇〇、〇〇〇円について、原告はこれを大仁国際の株式取得のための出資金として支出したものであると主張するが、証人滝口良光、同小林恒美の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び同小林の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一並びに右両証人の各証言によれば、右金員は原告から大仁国際に対し、貸付けられたものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用することができない。

(二) 次に、原告が大仁国際から収受したことは当事者間に争いのない三〇、〇〇〇、〇〇〇円に関し、右金員中に占める原告において大仁国際から出資金の返済として受領した金額(すなわち、右出資により取得した同会社の株式の売却金額)及び右株式の譲渡益の金額につき検討するに、証人滝口良光、同小林恒美の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、及び同小林の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし九並びに右両証人の各証言によれば、原告は昭和三五年六月二九日大仁国際に出資した一、五〇〇、〇〇〇円により同会社の株式三、〇〇〇株(額面五〇〇円)を取得し、このうち二、〇〇〇株は斎藤音吉、残り一、〇〇〇株は津原福子の各名義としていたところ、その後、大仁国際の当時の代表取締役であつた勝間敏雄に対し右株式全部を額面金額に五〇パーセントのプレミアムを加算した金額合計二、二五〇、〇〇〇円で買取らせ、以て前記出資金一、五〇〇、〇〇〇円の返還をうけたことが認められる。

原告は、右出資金の外に、昭和三五年八月一〇日、大仁国際に対し一、〇〇〇、〇〇〇円を出資して同会社の株式三、五〇〇株を取得し、前記一、五〇〇、〇〇〇円の出資金により取得済の一、五〇〇株と合せ合計五、〇〇〇株を同年一一月二六日に七、五〇〇、〇〇〇円で同会社に売却した旨主張するのであるが、既に認定したように、右一、〇〇〇、〇〇〇円は原告の大仁国際に対する貸付金であつて、株式取得のための出資金とは認められないし(なお、前記認定のとおり出資金一、五〇〇、〇〇〇円により原告の取得した株式数は三、〇〇〇株であつて、一、五〇〇株ではない)、また、原告が大仁国際に対し、同会社の株式五、〇〇〇株を七、五〇〇、〇〇〇円で売却したと認めるに足りる証拠はないから原告の右主張は採用しがたい。

そうすると、前記株式買取価格二、二五〇、〇〇〇円から原告が出資した一、五〇〇、〇〇〇円を差し引いた七五〇、〇〇〇円が原告の取得した前記株式三、〇〇〇株の譲渡益であり、右は、旧所得税法(昭和三六年法律三五号による改正前のもの。)六条五号に則り非課税所得というべきである。

したがつて原告が収受した前記三〇、〇〇〇、〇〇〇円から原告の前記貸付金及び出資金合計二四、〇〇〇、〇〇〇円と右株式譲渡益七五〇、〇〇〇円を控除した五、二五〇、〇〇〇円が原告の前記貸付による利息ないし謝礼金になるというべきである。

(三) 被告は、以上の他に、大仁国際が原告から前記のとおり貸付を受けた際に謝礼金ないし報酬金として一四、〇〇〇、〇〇〇円の支払を約した金員があり、右は旧所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前のもの。)一〇条一項所定の「収入すべき金額」に当たると主張する。

よつて検討するに、成立に争いのない甲第一〇号証、証人勝間敏雄の証言及び原告本人尋問の結果によれば、大仁国際が原告に対し、右謝礼金ないし報酬金一四、〇〇〇、〇〇〇円の支払を約したこと、しかるに、原告は右金員を未だ収受していないことが認められる。

ところで、原告は大仁国際に対し、前記のとおり、昭和三五年六月二九日に一、五〇〇、〇〇〇円、同年八月一〇日に一、〇〇〇、〇〇〇円、同月三〇日に二〇、〇〇〇、〇〇〇円、合計金額二二、五〇〇、〇〇〇円を貸付け、その後、原告は大仁国際から、同年一一月二二日に二、〇〇〇、〇〇〇円、同月二六日に二八、〇〇〇、〇〇〇円を収受し、右合計金額三〇、〇〇〇、〇〇〇円から前記株式譲渡代金二、二五〇、〇〇〇円を控除した二七、七五〇、〇〇〇円(利息部分は五、二五〇、〇〇〇円)を右貸付金に対する返済として受取つているのであるから、右貸付金額と返済金額とを対比すれば、原告が既に利息制限法一条一項の制限を超過して現実に利息を収受したことは明らかというべきである。

そして、被告の主張する前記一四、〇〇〇、〇〇〇円の謝礼金ないし報酬は、貸主である原告が前記二二、五〇〇、〇〇〇円の金銭消費貸借に関し、借主大仁国際から受けるべき元本以外の金銭であるから利息とみなされるべきであり(利息制限法三条)、右は同法による制限超過の利息で未収のものであるから、履行期が到来しても収入実現の蓋然性のあるものとはいえず、よつて、右約定にかかる謝礼金ないし報酬は、「収入すべき金額」に該当しないものというべきである。

2  必要経費

原告が前記総収入金額を得るために要した費用につき以下検討する。

(一) 支払利息等

成立に争いのない甲第六号証の二及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、同第六号証の一、四、一四、一五、同第七号証の一〇並びに右本人尋問の結果によれば、原告は大仁国際に前記のとおり融資した資金を調達するため自已名義あるいは他人名義で東京相互銀行等の金融機関から多額の金員の借入をした際、右東京相互銀行等の借入先に対し、利息として合計八二四、〇九六円、このほかに、抵当権設定費用、仮受金(公正費用)印紙代等として合計八七、五〇八円の支払を約したことが一応認められる。

しかしながら、原告は大仁国際から前記のとおり、昭和三五年一一月二六日までにその貸付金の返済を受けているのであるから、前記支払利息中、必要経費として認められるのは、同日までの期間に対応するものに限られる。すなわち、前記支払利息のうち、右返済期日までの期間に対応する支払利息の金額は、甲第六号証の一により認められる八八日分の一五八、四〇〇円、同号証の二により認められる九二日分の五一五、二〇〇円、同号証の一五により認められる九六日分の一〇、四九二円、同第七号証の一〇により認められる九五日分の二二、八〇〇円、同第六号証の四により認められる六〇日分の三六、〇〇〇円、同号証の一四により認められる一六日分の六、三三六円であつて、以上合計七四九、二二八円が必要経費に算入されるべき利息の金額である。

なお、右借入金が前記大仁国際に対する貸付以外の前記株式取得のための費用ないしその他の用途にあてられたと認めるに足る証拠はないので、その全額が前記貸付の資金にあてられたものであるというべきである。このことは後記「割引料等」、「雑費」についても同様である。

したがつて、前記支払利息及び抵当権設定費用、仮受金(公正費用)、印紙代等で必要経費に算入されるべき金額の合計は八三六、七三六円となる。

(二) 割引料等

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の三ないし六及び右本人尋問の結果によれば、原告は、前記貸付金資金を調達するため、割引料、延滞利息及び手数料(確定日付料及び印紙代)等として合計三四、五八〇円を支出したものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、甲第七号証の一、二、一二記載の延滞利息ないし割引料については、右各書証の日付が昭和三五年一一月三〇日あるいは昭和三六年七月二七日であつて、原告が大仁国際から貸付金の返済を受けた昭和三五年一一月二六日以後の手形取引にかかるものであること、右各書証には延滞利息等に対応する期間の記載がないこと等の事実に照らしいずれも必要経費とは認めがたい。

したがつて、右費用合計三四、五八〇円が必要経費に算入されるべきである。

(三) 雑費

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一ないし八及び右本人尋問の結果によれば、原告はは前記貸付のために登記関係の費用として合計五、八五〇円を支払つたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、右本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、甲第八号証の三記載の費用(三六、一四八円)は同第六号証の二の抵当権設定費用と、また、同八号証の五の謄本一通の費用(二三〇円)は同号証の八の登記簿謄本一通の費用とそれぞれ重複し、同じものであることが認められる。

したがつて右金額五、八五〇円が必要経費に算入されるべきである。

(四) 原告は、以上のほかに津原貢、同福子に対し支払つた費用及び報酬を必要経費に算入すべきであると主張する。なるほど、証人佐藤公三郎、同権田光正の各証言によりいずれも真正に成立したものと認められる申第一、第二号証、第三号証の一、二及び右両証人、同佐藤徹の各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)によれば、原告の大仁国際に対する前記融資にあたり、津原貢、同福子夫婦が資金調達等の面で原告に協力したこと、原告が昭和三六年五月二日津原夫婦に対し、現金二、〇〇〇、〇〇〇円及び原告において津原名義でした預金その他の名目のもの合計四、九四〇、〇〇〇円相当額を贈与することを約したことが認められる。しかしながら、他方、前記各証拠によれば、右は大和田商事の社員であつた津原貢が、同商事の役員であつた原告のために同人の大仁国際に対する融資、出資等の取引に専念したため、大和田商事から解雇されるに至り、さらに夫婦で経営していた広告代理店業も破綻に瀕する事態を招いたところから、これらに起因して生じた原告と津原夫婦の間の紛争を円満に解決する方法として金員の支払が約定されることになつたものと認められるのである。右認定に抵触する原告本人尋問の結果はたやすく信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみれば、右約定金の支払は本件雑所得を得るに必要な費用とは認められないというべきである。のみならず、仮に前記約定金員につき、その費用性が認められるとしても、その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものはその年において債務の確定しているものに限るというべきところ(旧所得税法一〇条、現行所得税法三七条一項参照)、前記認定事実によれば原告の津原夫婦に対する前記金員を支払うべき債務が確定したのは昭和三六年五月二日であるから、右の点からしても前記金員が本件係争年分の雑所得に対する必要経費には算入しえないことは明らかというべきである。

(五) 原告はさらに、残務整理費推計額三五〇、〇〇〇円を必要経費であると主張するが、右費用が如何なる理由により必要経費となるのか主張自体具体的でないばかりか、右主張を認めるだけの証拠もないので採用することができない。

(六) 以上により、本件において必要経費に算入すべき金額は前記(一)ないし(三)の合計金額八七七、一六六円となる。

3  雑所得金額

原告の本件雑所得金額は、前記1で認定した総収入金額五、二五〇、〇〇〇円から前記2で認定した必要経費八七七、一六六円を差引いた金額四、三七二、八三四円である。

三  してみれば、前記認定の雑所得金額四、三七二、八三四円に争いのない前記事業所得金額五九四、九四六円を加算した金額四、九六七、七八〇円が本件係争年分の総所得金額というべきである。

第三  よつて、被告がした本件再々更正処分の取消しを求める原告の請求は総所得金額四、九六七、七八〇円を超える部分については理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下薫 裁判官 佐藤久夫 裁判官 高橋利文)

別表

〈省略〉

〈省略〉

(注)一 青色申告の更正の理由が附記されていないので、当初更正を取消した。

(注)二 青色申告の承認の取消しを行なつたうえ、再更正した。

(注)三 青色申告の承認の取消しが裁決によつて取消され、(理由は、雑所得の金額にかかる事項の記載もれについて、貸付時の状況等から検討して当該金額を記帳しなかつたことをもつて備付帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の事実があると認定して行なつた青色申告の承認の取消しは妥当でないというにあつた。)その結果、更正の理由を欠く違法な処分となり、この処分も裁決で取消された。

(注)四 青色申告として更正の理由を附記し再々更正処分をした。

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